資本金はいくら必要?
会社を設立するには、まず資本金をいくらにするか決める必要があります。
資本金の額が少なすぎると事業に必要な資金が足りず、追加出資が必要となって登記費用が余分にかかってしまう場合があります。また逆に必要以上に多すぎると、本来払う必要のなかった税金を払うことになってしまう場合もあります。
そうした予想外の不利益を回避するために、資本金の額を決めるときに考慮すべきことを説明します。
目次
事業計画から必要資金を逆算
「設立時の資本金+借入れ(創業支援融資や親族から)+投資家からの出資」によって事業が軌道に乗るまでの時間を乗り切る、というのが基本的な考え方になります。
「事業が軌道に乗るまで」とは、自社の稼ぎだけで事業を回せる状態です。売上が上がり始め、毎月の入金額が毎月の支出額を上回る状況をイメージしてください。
ですので、まずは「事業が軌道に乗るまでの必要資金」と「それまでに借入れや出資で資金調達できそうな金額」を試算し、その不足分を補うためにはいくら資本金があれば良いか、事業計画から逆算して考えることが重要です。
なお、創業支援融資の多くは自己資金割合が1/10~1/2程度あることを要件としています。そのため、例えば事業全体での必要資金が1千万円で資本金と創業支援融資で賄う場合、創業支援融資で自己資金割合が1/2必要となっていたら、少なくとも資本金が500万円は必要であることがわかります。
許認可の資本金要件
旅行業や有料職業紹介事業、一般労働者派遣業などの許認可を取得する際に、一定金額以上の資本金が必要となっている場合がありますので、業種によってはその辺りも考慮する必要があります。
税金との関係
1千万円の壁①:消費税の免税事業者
消費税の課税事業者となるかどうかの要件の一つに、期首(設立時)資本金が1,000万円超か否かというのがあります。
ただし、すべての事業者にとって免税事業者が有利かというとそうでもなく、課税事業者と免税事業者のどちらが有利かは、事業の内容によって結論が180°変わってきます。また、2023年10月から開始するインボイス制度では取引先との関係において免税事業者が不利になる可能性もあり、多少の税負担を考慮してでも課税事業者を選択することもあり得ます。
消費税の課税事業者、免税事業者の判定は資本金以外にも多くの要素を検討しなければなりませんが、その一つとして資本金1,000万円という基準があることを頭の片隅に置いておいてください。
1千万円の壁②:住民税の均等割
会社は住民税の均等割を毎期納める必要があり、その金額は資本金等の額(基本的には資本金+資本準備金)と従業者数によって決まります。東京都23区内に1か所だけ事務所があり、従業者が50人以下の場合の均等割額は次のとおりです。
資本金等の額 | 均等割額 |
---|---|
1千万円以下 | 70,000円 |
1千万円超~1億円以下 | 180,000円 |
1億円超~10億円以下 | 290,000円 |
10億円超~50億円以下 | 950,000円 |
50億円超 | 1,210,000円 |
1千万円を1円でも超えてしまうと急に11万円も税負担が増えてしまうため、均等割の観点でも1,000万円以内に納められるかどうかは留意した方が良いです。
1億円の壁①:事業税の外形標準課税
資本金が1億円を超えると事業税の外形標準課税制度の対象となり、課税所得(税務上の利益)がマイナスであっても、付加価値割や資本割といった税金を納める必要が出てきます。
起業の局面で資本金が1億円を超えることはほとんどないと思いますが、会社設立後にエクイティファイナンスで1億円超の調達をした場合には、この制度により赤字でも税金が発生することはご留意ください。
1億円の壁②:法人税の中小法人
資本金が1億円以下の場合には、法人税において税制上の各種優遇措置が講じられています。ただし、資本金の額等が5億円以上である法人の完全子会社として設立された場合などは除きます。
本稿公開時点で適用される主な優遇措置は次のようなものがあります。
1. 軽減税率 | 所得800万円以下の部分について、税率19%。さらに、時限的に税率15%(租特法) |
2. 貸倒引当金 | 貸倒引当金を一定の限度額の範囲内で損金算入可 |
3. 欠損金関係 | ① 欠損金繰越控除について、所得金額の100%まで損金算入可 |
② 欠損金繰戻還付(1年間)が可 | |
4. 留保金課税 | 特定同族会社に対して課される留保金課税の適用除外 |
5. 租税特別措置 | ① 研究開発税制:一般形の税額控除率 |
② 中小企業における賃上げ促進税制(旧称:所得拡大促進税制) | |
③ 中小企業投資促進税制 | |
④ 中小企業経営強化税制 | |
⑤ 特定事業継続力強化設備等の特別償却(BCP) | |
⑥ 中小企業事業再編投資損失準備金制度 | |
⑦ 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 |
登録免許税
設立時の資本金の0.7%を登録免許税として支払う必要がありますので、設立コストを抑えるために資本金を増やしすぎないこともあります。
ただ、最低課税額として株式会社は15万円、合同会社は6万円が必ずかかりますので、資本金が1千万円に満たない場合には登録免許税についてはあまり深く考える必要はありません。